2020年10月号 医療法人における法定監査の対象基準
公認会計士 迫口 博之
大手・中堅監査法人を経て平成28年に御堂筋監査法人の設立に参画。以来、主に医療法人の内部統制指導、監査業務に従事。御堂筋監査法人 代表社員、公認会計士/システム監査技術者/医療情報技師。
2017年4月2日以降に開始される事業年度より、医療法人において公認会計士または監査法人による会計監査制度が導入されてから数年が経過しました。監査対象となる医療法人の基準についてはある程度周知されましたが、現在もまだ当法人に問い合わせがあります。そこで今回は、対象基準のおさらいと問い合わせの多い事例について、厚労省公表の「医療法人会計基準について(Q&A)」に沿って解説いたします。
1.規模の判断基準
法定監査の対象となる規模の判断の基準は以下の通りです。
①社会医療法人以外の医療法人
最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が70億円以上である医療法人
②社会医療法人
最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が20億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が10億円以上である社会医療法人
上記の『最終会計年度』とは、直前の会計年度を指します。例えば、3月決算の医療法人の場合、2020年4月1日から開始する会計年度が法定監査の対象となるかどうかは、2020年3月31日時点の貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額又は損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額によって判断します。
2.判定基準となる計算書類
上記の通り、医療法人が一定の基準に該当する場合には監査対象となりますが、一定の基準に該当するか否かを判定するに当たり、判定の基とする計算書類について誤った解釈がされている場合があります。
「医療法人会計基準について(Q&A)」では、都道府県知事に届け出るための従来から適用している会計処理基準で判定すればよいとされていますので、従来から税法基準で計算書類を作成している医療法人であれば、賞与引当金や退職給付引当金を計上しない計算書類で判定しても問題ありません。
この点、医療法人会計基準に従って作成した計算書類により判定すると解釈されているケースがあります。当該基準では賞与引当金や退職給付引当金を計上する必要があり、税法基準に従って作成された計算書類よりも負債の部の金額が大きくなりますので、誤った判断がなされないよう、判定基準とすべき計算書類にはご留意下さい。
3.期中の社会医療法人化
3月31日決算日の医療法人が、例えば2020年10月1日に社会医療法人の認定を受けた場合、監査対象となる規模の判断基準に関しても問い合わせが多い事例の一つです。
この場合、社会医療法人化する直前の2020年9月30日時点ではなく、最終会計年度(上記例では2020年3月期)に係る貸借対照表の負債の部が 50億円以上又は事業収益の合計額が70億円以上である医療法人かどうかによって判断し、該当すれば、2020年4月1日から開始する会計年度全体が監査対象となります。
4.監査法人選定のタイミング
監査対象となることが決まった場合、監査法人を選定するタイミングについては注意が必要です。監査契約前に監査を受ける体制が整っているかの調査を受ける必要がありますが、その調査後の体制整備の改善期間をある程度確保する必要があります。また、監査初年度は期首残高の監査も行いますので、期首時点では監査法人の監査が入っていれば効率的な監査対応を行うことが可能です。これらを考慮しますと、監査対象年度の前年度の出来る限り早い時期に監査法人を選定することをお勧めいたします。