2020年5月号 医療機関における固定資産の管理実務
公認会計士 迫口 博之
大手・中堅監査法人を経て平成28年に御堂筋監査法人の設立に参画。以来、主に医療法人の内部統制指導、監査業務に従事。御堂筋監査法人 代表社員、公認会計士/医療情報技師/診療報酬請求事務能力認定試験有資格者。
医療機関には土地や建物、医療機器などのさまざまな固定資産がありますが、金額が多額になることが多く、使用期間も長期に亘るため管理が重要となります。特に施設間で頻繁に移動が行われているにもかかわらず情報の伝達が行われていない病院や定期的に現物実査が行われていない病院など、現物管理に課題を抱えている医療機関も見受けられます。そこで今回は、現物管理を中心に固定資産管理の重要ポイントを解説したいと思います。
1.定期的な現物確認
購入時の登録誤りや廃棄・除却の処理漏れにより、実際は現物があるのに台帳に計上されていなかったり、現物がないのに台帳に残っていたりするなど、台帳が実態に合っていないことがあります。このようなことを発見するため、定期的に現物確認を行い、固定資産台帳と照合する必要があります。
現物と固定資産台帳との照合作業は資産の特定に意外と手間がかかりますので、購入の際、現物に資産管理番号シールを貼付しておけば特定作業が容易になります。また、対応関係を明確にするためにも、固定資産台帳に登録をする際は「○○一式」で登録するのではなく、特定可能な単位で登録することが必要となります。
さらに、機械や設備などの償却資産にも固定資産税が課されますので、現物確認により法人内の固定資産の実態を正確に把握しておかないと、必要以上の税金を納めることになりかねない点にご留意下さい。
2.実査対象の台帳の特定
固定資産台帳は経理課や総務課が管理していることが一般的ですが、医療機関によっては他の部署で独自の備品管理台帳等を作成しているところもあります。これらの医療機関には実査時に現場独自に作成した台帳と現物との照合は実施しているものの、経理課や総務課が管理している固定資産台帳の確認は行われていないケースも見受けられます。
しかし、減価償却費の計算や除却処理は固定資産台帳に基づいて行われるため、会計に実態が反映されない可能性があります。現場独自に作成された台帳と固定資産台帳との整合性を確認し、会計上の固定資産台帳の資産の実在性・網羅性を確認する必要があります。
3.除却、売却、移動時の情報伝達
固定資産を除却・売却・移動した際、タイムリーにその情報を固定資産の管理部署に伝達する必要がありますが、実査が行われた時にのみ管理部署に情報伝達が行われている医療機関があります。しかし、①3月決算の医療法人において固定資産実査が12月に実施される場合、実査時以降の動きが決算に反映されない、②施設間移動が行われた場合に減価償却費の負担部署の変更がなさず、従来の施設が過大に減価償却費を負担することになる等の問題が生じます。
したがって、除却・売却・移動時にはタイムリーに管理部署に情報伝達する仕組みを構築する必要があります。そうすることで、現場での資産管理の意識向上にも寄与するでしょう。
4.IT機器の現物管理
IT機器の中には、金額的重要性が乏しく、購入時に費用処理を行うため、固定資産台帳には登録されていないものがあります。そのため、固定資産台帳に基づいて照合作業を行えば、現物確認されないIT機器が生じることになります。
しかし、IT機器には個人情報や機密情報が含まれている場合が多く、端末紛失による情報漏えいなど情報セキュリティリスクの面などからも厳密な管理が求められています。したがって、固定資産台帳とは別のIT機器管理台帳を整備し、システム管理部署が現物確認を行うことが望まれます。
医療機関の固定資産管理は他の管理プロセスに比べると管理レベルがやや低いケースが散見されます。件数が多く、一気に改善するのが難しい場合には、例えば当期取得分の固定資産から資産管理番号シールを貼付するなど、出来るところから少しずつ改善していきましょう。