2020年8月号 適切な未収金管理へ向けた管理ポイント
公認会計士 三木 伸介
大手監査法人を経て平成25年に株式会社日本経営に入社し、医療・介護分野におけるコンサルティング業務に従事。その後税理法人日本経営に転籍し、医療法人等の税務業務に従事。平成29年に御堂筋監査法人に入所し、主に医療法人の監査業務を担当
患者負担金などの未収金管理は、医療法人の管理業務の中でも重要な業務にあげられますが、未収金管理が適切に機能していないケースがよく見受けられます。今回は適切な未収金管理へ向けた管理ポイントについて解説したいと思います。
1.現場の意識改革
患者負担金などの未収金管理は、通常、医事課にて管理されますが、医事課員によっては、医事課は診療報酬の請求を行うまでが主たる業務であると考え、請求後の入金管理についての意識レベルが低いケースが往々に散見されることがあります。こういった意識のもとでは、未収金管理が適切になされず、長期の未収金が発生してしまうことが多くなります。
医療法人においては、医療行為を行い、診療報酬を請求して入金があるからこそ、次の医療行為を継続して行うことが可能になります。未収金管理を行う医事課は、診療報酬について請求して終わりではなく、入金回収するまでが業務であるとの意識を持つことがまずは重要なポイントの一つに挙げられます。
2.督促方法のルール化、マニュアル化
未収金が発生した場合、通常、患者に督促の連絡を行いますが、業務が多忙なためか、督促の連絡を行うことに抵抗があるのか、連絡をとることを先延ばしにしてしまうケースがあります。一般的には未収状態で3ヶ月経過したものについては、長期未収金となる可能性が高くなります。未収金の発生時には、即座に担当者が行動できるよう、例えば発生2日目までに督促の電話を行う、期限を決めて入金がなければ本人および保証人に再度電話や家庭訪問を行う、また一定期限経過した場合は内容証明を発送する等、督促方法のルール化・マニュアル化をしておくことが必要です。また、実際に実施した督促内容については、必ず記録を残しておくことも未収金管理上重要です。
3.情報共有・コミュニケーションの強化
未収金の管理を外来や各病棟ごとの医事課担当者が行っている場合に、医事課長が担当者に任せきりで、未収状況を随時把握できていないケースがあります。担当者が督促を迅速に行わずに初動が遅れるケースとして、誰にも相談できずに抱え込んでしまう事がよくあります。このような状況を防ぐために、未収金管理が適切に機能している医療法人では、医事課内の月次会議で、未収金の管理状況が毎月報告されています。これは情報共有されることにより担当者とのコミュニケーションが強化され、未収金発生時の初動の遅れを防ぐとともに、未収患者の来院時に来院情報が即座に課内で回り迅速な対応ができる効果があります。また、医療法人によっては管理本部に毎月未収金の管理状況を報告する仕組みを導入している場合もあり、医事課の未収金管理における意識の向上や動機付けに一定の効果を挙げています。
4.数値目標や人事評価項目の設定
未収金の管理は、重用な管理業務である一方で業務が煩雑であり、担当者が避けたくなる業務です。このため、医事課として未収金管理のモチベーションを向上させるために、未収金管理の数値目標値を設定し(例えば年間の3ヶ月超の新規未収金発生金額は○百万円以下とする)、人事評価項目に加えることで未収金管理のモチベーションを向上させている医療法人もあります。
5.外部への委託
長期の未収金については、医事課での管理では限界があります。このような債権については、弁護士や債権回収会社に回収を委託することも考えられます。医療法人によっては半年超や1年超のものは特段の事情を除いて一律外部委託にするとルール化している場合もあります。
また、民法改正による個人保証人との極度額の交渉や極度額の残高管理などの事務、未収管理業務を解消することにより、本来の医療事務に特化し、医事課の人員コストの軽減効果を比較考量した上で、保証会社と保証契約を締結して未収管理を実施しているケースもあります。