2021年2月号 社団たる医療法人の社員総会と理事会の相違点
公認会計士 森 康友
平成25年に税理士法人日本経営に入社し、医療・介護分野における会計・税務業務に従事、決算業務や申告業務、特定医療法人成りなど医療法人における様々な分野に精通。現在、御堂筋監査法人において、主に医療法人の監査業務を担当。
社団たる医療法人には、様々な会議体があります。その中で、社員総会と理事会は、医療法により設置が義務付けられていること、法人の運営方針を決定すること等の共通する部分が多いことや構成メンバーが社員兼理事の場合が多いことからその運営方法についても同様であると混同されるケースが散見されます。そこで、今回は社員総会と理事会の運営方法における相違点をいくつか紹介したいと思います。
相違点1.招集の通知
社員総会については、医療法第46条の3の2第5項において「社員総会の招集の通知は、その社員総会の日より少なくとも5日前に、定款で定めた方法に従ってしなければならない」と定められており、厚労省が作成しているモデル定款において「書面で社員に通知しなければならない(電子的方法も可)」と定められています。このため、書面等での招集通知が必要となります。
理事会については、医療法第46条の7の2(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、一般社団財団法)第94条準用)において「理事会の1週間前までに、各理事及び監事に対してその通知を発しなければならない。理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続きを経ることなく開催することができる」と定められています。このため、口頭等での通知が可能であり、全員の同意がある場合には、招集通知を省略することが可能です。
従って、社員総会は招集通知が書面等によることは必須であるのに対し、理事会は招集通知が書面等によることは必須ではなく、招集通知も省略できるという相違点が存在します。
相違点2.委任による議決権の行使
社員総会については、医療法第46条の3の3第5項において「社員総会に出席しない社員は、書面又は代理人によって決議をすることができる。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りではない。」と定められており、モデル定款において「社員はあらかじめ通知のあった事項についてのみ書面又は代理人をもって議決権及び選挙権を行使することができる。ただし、代理人は社員でなければならない。」と定められています。このため社員間でのみとなりますが、委任による議決権の行使が認められています。
理事会については、医療法人と役員(理事)との法律関係は委任関係であると解され、受任者による再委任は民法第104条により原則禁止とされています。また、医療法において理事会に関する条文を定めている第46条の7の2(一般社団財団法第91条から第98条を準用)において、議決権の代理人行使に関する定めがありません。このため、委任による議決権の行使は認められていないと解されています。
従って、社員総会は社員間での委任による議決権の行使が出来るのに対し、理事会は理事間であっても委任による議決権の行使が出来ないという相違点が存在します。
相違点3.書面による議決権の行使
社員総会については、医療法第46条の3の3第5項により、定款に別段の定めがない場合には書面による議決権の行使が認められています。
理事会については、医療法において該当する条文がなく、書面による議決権の行使は認められていません。しかし、理事会においても書面による議決権の行使が可能であると考えていらっしゃる法人が散見されます。これは、理事会において認められている「書面決議」と混同していると考えられます。
書面決議とは、医療法第46条の7の2(一般社団財団法第96条を準用)により、「提案事項について、理事の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる」とされ、法人の定款に当該事項を定めることにより、理事会の開催を省略することを可能とするものです。よって、実際に理事会を開催する場合に出席しない理事が書面により議決権を行使する、書面による議決権の行使を定めたものではありません。
従って、社員総会は書面による議決権の行使が出来るのに対し、理事会は書面による議決権の行使が出来ないという相違点が存在します。
なお、理事長が職務執行状況の報告を行う場合は、理事会の開催を省略できない(一般社団財団法第98条を準用)ため留意が必要です。