2021年9月号 賞与引当金の会計処理
公認会計士 迫口 博之
大手・中堅監査法人を経て平成28年に御堂筋監査法人の設立に参画。以来、主に医療法人の内部統制指導、監査業務に従事。御堂筋監査法人 代表社員。保有資格:公認会計士/システム監査技術者/診療情報管理士。
適正な損益計算を行うため、会計監査の対象法人以外の法人においても、賞与引当金の計上を行う法人が増えてきました。しかし、医療法人会計基準や社会福祉法人会計基準には具体的な計算方法が明示されていないため、計算方法や会計処理が分かりづらい項目でもあります。そこで今回は、誤りが多い項目に絞ってポイントを解説したいと思います。
1.表示科目
翌期に支給される賞与について、賞与引当金として表示されている場合もあれば、未払金として表示されている場合もあり、その違いは何かということについて疑問を持たれたことはないでしょうか?あるべき処理方法は支給額の確定の有無がポイントとなります。
(1)支給額が確定している場合
財務諸表の作成時において職員への賞与支給額が確定しており、当該支給額が支給対象期間に対応して算定されている場合には、当期に帰属する額を『未払費用』として計上します。
一方、当該支給額が支給対象期間以外の臨時的な要因に基づいて算定されたもの(例えば決算賞与)である場合には、その額を『未払金』として計上します。
(2)支給額が確定していない場合
財務諸表の作成時において職員への賞与支給額が確定していない場合には、支給見込額のうち当期に帰属する額を『賞与引当金』として計上します。
2.支給見込額の算定方法
賞与引当金は、賞与支給対象期間と賞与の支給日が会計期間をまたぐ場合に、翌期の支給見込額のうち当期負担額を見積計上するものです。しかし、翌期の支給見込額ではなく、過去の支給実績に基づいて引当金を算定しているケースが時折見受けられます。
この点、翌期の支給見込額が過去の支給実績額とほぼ同額であれば問題ありませんが、業績変動により過去の支給額から大きく変更されるのであれば、過去の支給実績に基づいて引当金を算定することは妥当ではありません。
この場合は当期の法人の業績、賞与の支給率、給与のベースアップ等を反映して支給額を見積もる必要があります。もし、これらを考慮して予算が策定されているのであれば、予算数値を用いることも考えられます。
3.設定対象者
賞与引当金の設定対象者について、期末日現在の職員数に基づいて算定するのか、それとも支給予定日の職員数に基づいて算定すればよいのか迷いやすいところです。実務上、誤りが多い以下の項目についてご留意下さい。
(1)退職者の取扱い
支給日現在での在籍が賞与支給の条件となっている場合、決算日以前の退職者については引当金の設定者から除外する必要があります。
(2)入職者の取扱い
賞与支給見込額に翌期の入職者に係る賞与が加味されている場合についても、当該入職者を引当金の設定者から除外する必要があります。
4.賞与に係る社会保険料
賞与引当金を計上する場合に、忘れずに計上しなければならないのが、賞与に係る社会保険料の法人負担分です。賞与を支給した場合には必ず社会保険料が発生し、金額を合理的に見積もることが出来ますので、社会保険料の法人負担分についても見積り計上する必要があります。
この社会保険料には、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料及び労働保険料が含まれますが、翌期の賞与支給時における保険料率を用いて算定する点にご留意下さい。
会計処理については、社会保険料部分は賞与の見積額とは異なるため賞与引当金に含めず、未払費用で計上するのが一般的な処理となります。
(借方)法定福利費 ×× /(貸方)未払費用 ××
5.支給見込額と実際支給額との差額
会計処理について質問が多い項目の一つに、支給見込額と実際支給額との間に差額が生じた場合の処理がありますが、計上時点において、入手可能な情報に基づいて合理的に算定していたかがポイントとなります。
(1)合理的に算定していた場合
当該差額を特別損益項目に計上されているケースがありますが、計上時点で入手可能な情報に基づいて合理的に算定したにも関わらず差額が生じた場合は、損益計算書の事業費用の区分に計上します。
(2)合理的に算定していなかった場合
計上時点における見積りが合理的に行われていなかった場合には、過年度の会計処理が不適切であったということになります。差額については当年度の特別損益項目に計上しますが、財務諸表の利用者が誤解を招く恐れがある場合には、過年度の決算書の修正について監査人や監督官庁と協議する必要があります。