2022年3月号 あるべき未収金残高の把握
公認会計士 田中 久美子
1993年から大手監査法人で監査業務・M&A支援業務に従事し、中国への海外赴任を経て2017年御堂筋監査法人に入社。医療法人及び社会福祉法人の監査業務に従事。同志社大学大学院で内部統制、内部監査の講義を担当。御堂筋監査法人代表社員。
医療法人の収益認識は一般事業会社とは異なり、役務の提供時点で収益金額が必ずしも確定しないということが特性として挙げられます。その特性のため、未収金残高について、医事課が把握している残高と経理が把握している残高とが整合していないということが散見され、頭を悩ませておられる医療法人も多いのではないでしょうか。今回は、医療法人の特性に関連したあるべき未収金残高の把握を困難にしている主な要因と、意外と実施されていない未収金の残高管理について解説させていただきます。
1.未収金概念の相違
医療法人において「未収金」の概念は実は一つではなく、特に医事課と経理課とで異なる場合が散見されます。医事課では、未収金は「回収不能債権」と認識しているケースもあり、診療当日たまたま持ち合わせがなく、数日後に入金があった場合、当該債権は未収金とは認識しない場合があります。しかし、会計上は診療行為に対する対価としての未収金は診療行為に伴って発生しますので、当然に未収金が発生しています。その基本概念の違いから、あるべき未収金残高を把握しようと医事課に問い合わせても、経理課が欲しい情報が入手できるとは限らないことが起こりえます。
また、未収金については定期的に会議等で検討しており、残高管理ができていると自負されている医療法人も多いと思いますが、その残高が会計帳簿と連動しているものかどうかの確認をさせていただくと、会計とは全く連動していない金額で検討が行われているということも往々にしてあります。
このように、管理すべき「未収金」の概念が異なることにより、あるべき未収金残高を把握することが困難になっている場合があります。
2.事後的な未収金の変更
さらに医療法人の特性として、請求先が事後的に変更となり、時として金額まで変わることがあります。例えば、勤務時間中の怪我等で来院した場合、患者は労災対応と主張したとしても病院側としては現認書がない限りは労災として取り扱うことができず、一旦自費扱いとする場合があります。その場合に患者が自費として支払ってくれるとは限らず、その時点では自費の未収金として計上されますが、月を跨いで労災扱いになった場合、医事課と経理課とで連携が取れていないと、医事課では労災扱いとして金額も請求先も医事システム上で変更して、自費未収金はないものとすることがあります。しかし、経理課では入金を労災の未収金の回収として処理しますが、自費未収金から労災未収金への振替が行われていないので、労災の未収金が過大に減額される一方、自費未収金はそのまま残置されることになります。労災保険情報センター(RIC)からの支払が立替払になっている等、医療法人特有の回収方法が、あるべき未収金残高の把握をさらに困難にさせている要因となっているかもしれません。
3.医事課と経理課の協力体制
医事課も経理課も、その時点でのエビデンスに基づいて報告・会計処理されるのですが、その後の修正報告の漏れや入金の消込先の間違い等は、残高の整合性を確認しないと把握できません。しかし、医療法人のなかには、報告時点でのエビデンスとの整合性は確認しても、その結果としての残高の整合性を確認していないところがあります。この残高の相違をいかに早期に検出し、整合性を確保するかが重要なポイントとなり、定期的な照合が必要不可欠です。
しかし、法人によっては入金を医事システムに入力せず、未収金管理は別途エクセルで行っている場合もあります。たとえシステムで未収金管理を行っていても、事後的な入金データがあると、遡及的にある時点での未収金残高をシステムで把握することができない場合もあります。さらに、未収金残高が把握できたとしても、差異を分析するには非常に多くの時間と労力を必要とします。
各法人の必要性と実態に応じて、医事課と経理課との連携を図り、事後的な変更の報告体制を整備するとともに、結果としての残高を医事課と経理課とで確認することの重要性を認識し、相互に協力して実行していく体制を構築することが成功のカギを握ることになります。まずは、医事課と経理課とで現状を把握し、現実的な解決方法を歩み寄って考えていくことが必要でしょう。