2022年2月号 医療法人の業務範囲と事業損益の区分について
公認会計士 迫口 博之
大手・中堅監査法人を経て平成28年に御堂筋監査法人の設立に参画。以来、主に医療法人の内部統制指導、監査業務に従事。御堂筋監査法人 代表社員。保有資格:公認会計士/システム監査技術者/診療情報管理士。
医療法人は、一般の事業会社のように定款に記載さえすればどのような事業でも出来るというわけではなく、医療法で業務範囲が限定されています。医療法人会計基準では医療法に規定される業務区分に従って事業損益を区分する必要がありますので、今回は医療法の業務範囲のおさらいと医療法人会計基準を適用する上での注意点とポイントを解説します。
1.本来業務について
医療法人の事業の中心となる業務であり、病院・診療所及び介護老人保健施設の運営がこれに該当します(医療法第39条)。本来業務に付随する以下の業務についても、定款(寄附行為)の変更等を行うことなく、本来業務の一部として行うことができます。
- 院内に設置する売店
- 病院に隣接する患者用駐車場の運営
- 松葉杖などの医療用器具の販売
- 無償で行う患者送迎
2.附帯業務について
医療法人は、定款(寄附行為)で定めることにより、附帯業務として医療法第42条に定められる以下の業務を行うことができます(医療法第42条)。
①医療関係者の養成又は再教育
(例) 看護専門学校、リハビリテーション専門学校
②医学又は歯学に関する研究所の設置
(例) 臨床医学研究所
③巡回診療所、医師又は歯科医師が常時勤務していない診療所(へき地診療所等)の開設
④疾病予防運動施設
⑤疾病予防温泉施設
⑥保健衛生に関する業務
(例) 薬局、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所
⑦社会医療法人のみが行うことができる社会福祉事業
(例) 障害児入所施設、老人デイサービス
⑧老人福祉法に規定する有料老人ホームの設置
上記の附帯業務は限定列挙項目であるため、役職員への金銭等の貸付は附帯業務として行うことは出来ません。福利厚生の一環として行うことは可能ですが、その場合は全役職員を対象とした貸付に関する内部規定を設ける必要がある点にご留意下さい。
3.収益業務について
社会医療法人は、病院、診療所又は介護老人保健施設の業務に支障のない限り、定款(寄附行為)の定めるところにより、その収益を病院、診療所又は介護老人保健施設の経営に充てることを目的として収益業務を行うことができます(医療法第42条の2)。
実施可能な業務については、厚労省告知において日本標準産業分類に基づく一定の業務が定められています。具体的には以下の業務が挙げられます。
- 不動産賃貸業、駐車場業
- 医業経営相談業、エステティックサロン業、フィットネスクラブ業
- 保健機能食品、医療・介護用品等の販売業
- レストラン、喫茶店、食堂の経営などの飲食業
なお、実務上は法人税法の『収益事業』と混同されがちですが、両者が規定する業務範囲は異なりますので注意する必要があります。
4.事業損益を区分する意義
医療法人会計基準上、損益計算書上の事業損益は本来業務、附帯業務及び収益業務に区分する必要があります。事業損益を区別する意義は、附帯業務及び収益業務の運営が本来業務の支障となっていないかどうかの判断の一助とすることにあります。
したがって、病院会計準則等の従来の会計基準では事業外損益とされていた帰属が明確な付随的な損益についても、本来業務、附帯業務及び収益業務の各業務損益に計上することになります。
具体的には、病院会計準則では事業外損益に含まれていた運営費補助金収益、施設設備補助金収益、患者外給食収益、患者外給食用材料費、診療費減免額について、医療法人会計基準では事業損益区分の各業務損益に含まれることになります。
【参考】損益計算書の事業損益区分
5.収益業務の会計及び注記
収益業務に係る会計は、本来業務及び附帯業務に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければなりません。したがって、貸借対照表及び損益計算書書(以下「貸借対照表等」)は、収益業務に係る部分を包んでいますが、内部管理上の区分においては、収益業務に固有の部分について別個の貸借対照表等を作成する必要があります。
また、当該収益業務会計の貸借対照表等で把握した金額に基づいて、収益業務会計から一般会計への繰入金の状況(一般会計への繰入金と一般会計からの元入金の累計額である繰入純額の前期末残高、当期末残高、当期繰入金額又は元入金額)並びに資産及び負債のうち収益業務に係るものの注記をする必要があります。
【参考】資産及び負債のうち収益業務に関する事項・収益業務からの繰入金の状況に関する注記
(1)資産および負債のうち収益業務に係るもの
(2)収益業務からの繰入金の状況
以上