2023年1月号 医療法人におけるインボイス制度への対応
公認会計士試験合格者 寺嶋 美香
元臨床検査技師。医療従事者として病院等での勤務を経て、公認会計士試験合格後、御堂筋監査法人に入所。現在は元医療従事者としての経験を活かし、主に医療法人の監査業務を担当。
令和5年10月1日から消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が始まります。 医療法人の規模や業務内容により、インボイス制度への対応が異なることが考えられます。そのため、どのような対応が必要となるのか戸惑われている方もいらっしゃると思います。そこで、医療法人におけるインボイス制度への対応を簡単に説明したいと思います。
1.消費税の概要~仕入税額控除とは
消費税は、商品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課される税で、次のように計算されます。
上記のように、仕入税額を差し引くことを仕入税額控除といいます。インボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入に伴い、課税事業者はインボイス(適格請求書)を保存しなければ仕入税額控除が行えない、つまり納付税額が増えコストアップにつながることとなります。そのため一般事業会社では以下のような検討課題があり、コストとメリットを十分に考慮して検討が重ねられています。
(1)買手側として、「インボイスを発行できない事業者との取引」は、今後コストアップとなりますので、取引先を変える、もしくはコストアップとなる分の値引きを要請するという可能性があります。
(2)売手側として、「インボイスを発行できない」事業者は、取引先から回避される可能性があるため、課税事業者となりインボイスを発行することが考えられます。その場合、消費税の申告が必要になる等の事務処理手続きが煩雑になるおそれがあります。
2.医療法人特有の検討事項
医療法人の特徴として保険診療があげられますが、保険診療は消費税が課されない売上(非課税売上)です。したがって、保険診療では支払った消費税は仕入税額控除が行えず、従来からコストとして負担しています。
そのため、極端で現実的ではありませんが、保険診療のみを行っている場合を想定すると、買手側、売上側、どちらの場合でも、影響はないと考えられます。
一方、健康診断や予防接種等の自由診療は課税売上となるため、自由診療の多寡により、買手側では一般事業会社と同様の検討をする必要があると考えられます。売手側では、相手が個人の場合は消費税を申告することがないため問題となりません。しかし、企業健診など相手が法人である場合には、自法人が現在免税事業者であれば、ビジネスモデルに応じた対応を検討する必要があると考えられます。
3.具体例を用いた検討
課税事業者の判定基準
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、免税事業者、課税事業者(簡易課税制度選択含む)、いずれを選択することも可能であり、「2.医療法人特有の検討事項」で述べたように、自法人のビジネスモデルを考慮して意思決定する必要があります。
ここで、インボイス制度の導入による影響を受けることが想定される「課税事業者に対する売上がある免税事業者」について、①課税事業者へ変更した場合と②免税事業者を維持した場合の納税額のシミュレーションを行いたいと思います。
4.まとめ
医療法人におけるインボイス制度への対応について、保険診療を主に行っている法人に大きな影響はありませんが、自由診療を行っている法人については、以下の通りとなります。
(買手側)自法人が課税事業者である場合、取引先について検討する必要あり。
(売手側)取引先に課税事業者がある場合、自法人が課税事業者となるか否かについて、ビジネスモデルに応じて検討する必要あり。
インボイス制度はまだ施行されていないため、これから変更される可能性もありますが、参考にしていただけると幸いです。