2023年3月号 医療法人の決算スケジュール
公認会計士 迫口 博之
大手・中堅監査法人を経て2016年に御堂筋監査法人の設立に参画。以来、主に医療法人の内部統制指導、監査業務に従事。御堂筋監査法人 代表社員。保有資格:公認会計士/システム監査技術者/診療情報管理士。
今年も決算シーズンが迫ってまいりました。決算を迎えるにあたり、決算スケジュールを立てる必要がありますが、そのためには医療法に定められている決算手続や期限を正確に理解する必要があります。そこで今回は医療法における決算スケジュールにポイントを絞り、事業報告書の作成・監査から社員総会の開催に至るまでの各手続について、具体的な検討事項と留意点を解説したいと思います。
1.決算スケジュール例
2023年3月期決算を前提とした決算スケジュール例は以下の通りです。以下、法人類型及び流れに沿って具体的な検討事項と留意点を解説します。
2.一定規模以上の医療法人について
医療法第51条第2項に規定される以下の一定規模以上の医療法人(以下、「一定規模以上の医療法人」)については、公認会計士又は監査法人の監査が義務化されています。決算スケジュール上、監査期間を組み込む必要がありますので、一定規模以上の医療法人はそれ以外の医療法人と比べて決算スケジュールがタイトになります。
①最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上又は
最終会計年度に係る損益計算書の収益の部に計上した額の合計額が70億円以上である医療法人
②最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が20億円以上又は
最終会計年度に係る損益計算書の収益の部に計上した額の合計額が10億円以上である社会医療法人
③社会医療法人債発行法人である社会医療法人
一般的に医療法人の社員総会は5月に開催されることが多いですが、一定規模以上の医療法人に該当する法人や該当することが見込まれる法人については、社員総会開催月を5月から6月に変更し(3月決算前提)、余裕を持った決算スケジュールを組むことをご検討下さい。
3.事業報告書等の作成および監査
(1)事業報告書等の作成
医療法人は、毎回会計年度終了後2ヶ月以内に、事業報告書等(事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書)を作成しなければなりません。また、一定規模以上の医療法人は上記に加え、「純資産変動計算書」、「附属明細表」を作成する必要があるため、決算作業のボリュームが大きくなります。
(2)公認会計士又は監査法人の監査
公認会計士又は監査法人(以下、「公認会計士等」)は、次に掲げる日のいずれか遅い日までに、理事及び監事に対し、公認会計士等の監査報告書の内容を通知する必要があります。
①財産目録、貸借対照表及び損益計算書を受領した日から4週間を経過した日
②理事、監事及び公認会計士等が合意により定めた日があるときは、その日
(3)監事の監査
監事は次に掲げる日のいずれか遅い日までに理事に対し、監事の監査報告書の内容を通知する必要があります。
①事業報告書等を受領した日から4週間を経過した日
②理事及び監事が合意により定めた日があるときは、その日
医療法人の監事の監査報告書の日付と公認会計士等の監査報告書の日付との前後関係ですが、医療法人には会計監査人が機関として設置されておらず、監事の監査報告書が公認会計士等の監査報告書の後になるという規定はありません。但し、実務上、公認会計士等は監査報告書を監事の監査報告書の提出日よりも前に提出することが望ましいと考えられています。
4.事業報告書等の理事会の承認
(1)理事会の招集通知
理事会を招集する者は、理事会の日の1週間前までに、各理事及び各監事に対して理事会を招集する旨を通知します。「初日不算入規定」が適用されるため、招集通知発送日と理事会開催日の間隔は中7日以上必要となる点にご注意下さい。
もし決算スケジュールがタイトな場合、以下のように招集通知期間を調整することでスケジュールに余裕を持たせることができます。
①理事会の招集通知の省略
理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することが可能です。
②理事会の招集通知の短縮
定款上の招集期間を1週間よりも少なくし、招集通知期間を短縮することが可能です。
(2)理事会の決算承認
監事及び公認会計士等の監査を受けた事業報告書等について、理事会の承認を受けなければなりません。
(3)事業報告書等の備置き
理事会の承認を受けた事業報告書等を事務所に備え置きます。社員総会から1週間前に備え置かなければならないため、理事会と社員総会の開催間隔は最低1週間空くことになります。
5.事業報告書等の社員総会の承認
(1)社員総会の招集通知
社員総会の招集通知は、その社員総会の日より少なくとも5日前に、会議の目的である事項、日時及び場所を記載し、理事長がこれに記名した書面で社員に通知します。理事会の招集通知と同様、「初日不算入規定」が適用されるため、招集通知発送日と社員総会開催日の間隔は中5日以上必要となります。
(2)社員総会の決算承認
理事会で承認を受けた事業報告書等を招集通知の際に提供し、社員総会の承認を受けなければなりません。実務上、理事会と社員総会の決算承認が同日開催されているケースが見受けられますが、上述の通り、理事会の承認を受けた事業報告書等を社員総会の1週間前から事務所に備え置かなければならないため、理事会と社員総会は同日に開催することは出来ない点にご留意下さい。
6.決算の届出及び公告
(1)都道府県への決算届出
事業報告書等の決算関係書類は、決算終了後3月以内に都道府県知事に届け出なければならないとされています。これまで紙媒体によって届け出られている事業報告書等(決算届)について、令和4年4月より、医療機関等情報支援システムへのアップロードによる届出が可能となっております。
(2)決算公告
「2.一定規模以上の医療法人について」で示した①の医療法人と全ての社会医療法人においては、社員総会後遅滞なく、以下のいずれかの方法により決算公告を行う必要があります。
①官報に掲載する方法
②日刊新聞紙に掲載する方法
③電子公告(ホームページ)
電子公告(ホームページ)により公告をする場合、貸借対照表及び損益計算書を承認した社員総会の終結の日後3年を経過する日までの間、継続して公告する必要がある点にご留意下さい。
また、官報に公告する場合、従来は計算書類の全文を公告する必要がありましたが、2021年3月2日以降に開始される会計年度から株式会社等と同様、計算書類の要旨のみの公告となりました。決算公告の簡素化により掲載料金が大幅に下がることになりましたので、公告方法を比較検討する際のご参考にして頂ければと思います。