2023年4月号 事業報告書等のG-MIS様式による届出の注意点
公認会計士 川中 敏史
大手監査法人を経て2022年から御堂筋監査法人にて勤務。主に医療法人の内部統制指導、監査業務に従事。
保有資格:公認会計士
医療法施行規則の一部改正等により、令和4年4月1日から、医療法人の事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書等(以下、「事業報告書等」)について、医療機関等情報支援システム(以下、「G-MIS」)による届出が可能となっています。今後、G-MISを利用した事業報告書等の届出を検討される医療法人がさらに増えていくことが予想されます。
今回はその中でも、医療法において会計監査を受けることが求められる医療法人がG-MISを利用して事業報告書等の届出を行う場合に、注意すべきポイントについて解説します。
1.事業報告書等の届出制度
✧ 制度概要
医療法人は、事業報告書等を作成し、毎会計年度終了後三月以内に、監事の監査報告書とともに都道府県知事に届け出ることが必要です。
公認会計士又は監査法人(以下「公認会計士等」)の会計監査を受ける場合は、公認会計士等の監査報告書も届け出ることが必要となります。
✧ 届出方法の選択
従来は、書面による提出のみが認められていましたが、令和4年3月 31 日の「医療法施行規則の一部を改正する省令」の公布に伴い、令和4年4月1日より電磁的方法による届出が新たに定められ、電磁的方法と書面による届出のいずれかを選択することが可能となっています。
① 書面の提出
従来から変更はありません。
厚生労働省から公表されている「医療法人における事業報告書等の様式について」に従うことになります。
② 電磁的方法の利用
令和4年3月 31 日付の『「医療法人における事業報告書等の様式について」の一部改正について』において、電磁的方法による届出様式については、公認会計士等の監査報告書を除き、医療機関等情報支援システム(G-MIS)からダウンロードした様式により取り扱う旨が公表されています。
2.会計監査の対象となる場合の事業報告書等の届出制度
医療法人が医療法第51条第2項の『厚生労働省令で定める基準』(※)に該当する場合には、財産目録、貸借対照表、損益計算書について公認会計士等の会計監査を受けたうえで、事業報告書等及び監事の監査報告書に加え、公認会計士等の監査報告書を都道府県知事に届け出ることが必要です。
※厚生労働省令で定める基準
① 社会医療法人以外の医療法人
最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が70億円以上である医療法人
② 社会医療法人
最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が20億円以上又は最終会計年度に係る損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が10億円以上である社会医療法人
③ 社会医療法人債発行法人である社会医療法人
また、貸借対照表及び損益計算書については医療法人会計基準に準拠して作成することが求められます。(下表赤枠参照)
3.G-MISの届出様式と医療法人会計基準の作成様式の違い
G-MIS様式による届出を行うことで医療法第52条第1項の届出義務は充足されます。
しかし、G-MIS様式は届出を行うための統一フォーマットであることから、貸借対照表及び損益計算書をG-MIS様式に沿って作成したとしても、医療法第51条第2項で要求される医療法人会計基準に準拠した作成義務が充足されるとは限りません。
✧ 医療法人会計基準の様式(作成様式)
同会計基準において、『貸借対照表は、会計年度の末日における全ての資産、負債及び純資産の状況を明瞭に表示しなければならない。』、『損益計算書は、当該会計年度に属する全ての収益及び費用の内容を明瞭に表示しなければならない。』と定められており、指定様式に対して、適当と認められる場合には科目削除、追加等のアレンジが必要
✧ G-MIS様式(届出様式)
経営情報のデータベース化という目的の下、比較可能性を確保するために各法人特有の勘定科目は想定されておらず、指定様式に対して、科目削除、追加等のアレンジ不可
4.実務上の留意点
① 医療法人会計基準に準拠した貸借対照表及び損益計算書の届出要否
G-MIS様式にて事業報告書等の届出を行うことで、医療法上の届出義務は充足されるため、医療法人会計基準に準拠した貸借対照表及び損益計算書の届出は任意(※)となります。
なお、公認会計士等の監査報告書の様式はG-MIS様式の対象外となるため、別途PDFをG-MIS内に添付して届出を行う必要があります。
※届出を行う場合、公認会計士等の監査報告書と同様に別途PDFを添付することが考えられます。
② 理事会及び社員総会の承認対象
事業報告書等は理事会及び社員総会による承認が必要となりますが、この承認はあくまで公認会計士等の監査を受けた事業報告書等(※)が対象となります。
※公認会計士等の監査対象は財産目録、(医療法人会計基準に準拠した)貸借対照表及び損益計算書になります。
③ 表示科目の違い
例えば、賞与引当金や退職給付引当金、リース資産(債務)等の勘定科目の残高が大きく、医療法人会計基準に準拠してこれらを別掲した貸借対照表を作成した場合は、G-MISへ入力を行う際にこれらの勘定科目を「その他引当金」や「その他の有形(無形)固定資産」、「その他の流動(固定)負債」として入力することになります。
なお、千円単位表示のG-MIS様式において様式上の勘定科目に残高が無い(ゼロ円)の場合は「0」ではなく、「空欄」とします。
5.まとめ
本解説のポイントを以下のとおりおさらいします。
➢ 貸借対照表及び損益計算書に係るG-MIS様式と医療法人会計基準の様式の違い
G-MIS様式はあくまでデータベース化のための統一された届出様式であるのに対し、医療法人会計基準の様式は会計基準に準拠して作成するための参考雛形という位置づけです。
このように各様式の目的は異なる点にご注意ください。
➢ 作成事務負担の重複
G-MIS様式により貸借対照表及び損益計算書を作成したとしても、医療法人会計基準に準拠しているとは限らないため、会計監査の対象となる貸借対照表及び損益計算書の作成が別途必要となるおそれがあります。
➢ 経営情報のデータベース化の必要性
現在、「医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」等において、経営情報のデータベース化に関する議論が進められています。このことから、いずれは全ての医療法人が電磁的方法による届出が義務付けられる可能性があると考えられます。
以上から、現時点では一部業務の非効率や既存慣行との不整合の可能性はあるものの、データベース化が優先事項であることは明白ですので、今後は、利用促進のためにもG-MISを含め、関連法令やそれに基づく諸様式の見直しが進むと思われます。