2023年8月号 賞与引当金の見積りについて
公認会計士試験合格者 寺嶋 美香
元臨床検査技師。医療従事者として病院等での勤務を経て、公認会計士試験合格後、御堂筋監査法人に入所。現在は元医療従事者としての経験を活かし、主に医療法人の監査業務を担当。
8月に入り夏期賞与が支給された法人も多いと思いますが、年度決算においては夏期賞与に係る賞与引当金はどのように計上されたでしょうか?
今回は、年度決算時の賞与引当金の計上における賞与支給見込額の算定方法の違いによるメリットやデメリット及び見積りの検証方法など、賞与引当金における会計上の見積りに焦点を当てて解説したいと思います。
なお、賞与引当金全般については、2021年9月号ニュースレター「賞与引当金の会計処理」の記事にて、誤りが多い項目を中心に取り上げておりますので、そちらも併せてご参考にしていただければと思います。
1.賞与引当金の概要
賞与は支給対象期間における労働の対価として支払われるものであり、支給額が確定している場合は未払賞与として計上されます。しかし支給額が確定していない場合は、賞与支給対象期間の一部または全部が当会計年度にあり、賞与の支給日が会計期間をまたぐ場合に、翌期の支給見込額のうち当期の負担額を賞与引当金として見積り計上します。引当金として繰り入れられる金額は、財務諸表作成時点で入手可能な情報に基づいて合理的に見積ります。
2.支給見込額の算定
賞与引当金は賞与の支給見込額のうち当期の負担額を計上しますが、支給見込額の算定方法について、個人別に算定する方法及び全体で算定する方法の2つのパターンが考えられます。これらのメリットやデメリットについて下表にまとめました。
算定方法として、規程や理事会決議等で定められた算定式(例えば基本給×2カ月分等)に従って機械的に個人別に計算するのであれば支給額がほぼ確定しており、考えられるリスクは賞与支給対象者が漏れなく集計されているかどうかです。
一方、過去のトレンドを踏まえ前年度実績に昇給率や人員増減を加味することで、簡便的に全体値で算定する方法も合理的な方法の一つとして考えられ、法人の実情や費用対効果を考慮して効率的に見積もることも可能です。この場合は実績と大きく乖離するリスクがあるため、支給金額確定後に見積金額との差異の大きさや差異原因について検証を行うことが有効となります。
また、賞与決定の際に業績や人事評価等を考慮する必要がある場合は、不確実性を伴う会計上の見積りの要素があり、決算時点で入手可能な情報に基づいてどのように合理的な見積りを行うかが問題となります。賞与支給の金額が確定するのは将来のことであるため、どのような数値が合理的であるかを判断するのは難しいですが、例えば、営業利益などの業績連動指標については、最新の予算数値を見積りに反映させる等の対応が必要になると考えられます。
3.見積りの検証
賞与引当金で重要なことは見積り金額が合理的であるか否かですが、これは実際支給額が確定した後に賞与引当金算定時の支給見込額と実際支給額を比較することで検証することができます。監査で行うバックテストという手続ですが、法人内でもこの方法を用いて、見積りが合理的であったかどうかを検証することが有効です。
実際支給額と支給見込額の間に多額の差異が発生した場合は、その差異原因について検証する必要があります。
例えば、実際支給額に引当金計上の対象者以外が含まれることにより多額の差異が生じている場合(規程により4月以降入職者にも賞与支給する場合等)や、見積り時点で想定されていない要素が実際支給額に含まれている場合は、実際支給額からその影響額を除いて再度検討し、見積りの合理性を確かめます。
検証の結果、見積りに用いた仮定(例えば賞与支給は昨年同レベル)が妥当ではないとなった場合は、見積り方法の変更や見積りに用いられる仮定の追加や変更等、翌期に合理的な見積りができるように見積り方法を検討する必要があります。
4.まとめ
今回は、賞与引当金の見積りについて検証方法も含め解説させていただきました。会計上の見積りには不確実性を伴う場合がありますが、法人の実態に応じて見積りの不確実性、複雑性、主観性の程度は異なります。合理的な見積りとするために何を考慮すべきか、過去の見積りの検証を通して、ご検討いただく際の参考にしていただければ幸いです。