2023年9月号 社会保険料に係る会計処理について
公認会計士 森 康友
平成25年に税理士法人日本経営に入社し、医療・介護分野における会計・税務業務に従事。現在、御堂筋監査法人において、主に医療法人の監査業務を担当。保有資格:公認会計士/医療経営士
9月は健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料(以下、社会保険料とする)の標準報酬月額改定の月です。社会保険料はどの法人にも関係があり身近ですが、その会計処理についてどれくらいの法人が正しく理解されているでしょうか。監査をさせていただくと月次処理や決算処理を誤っているケースが散見されます。そこで今回は、社会保険料の会計処理について、基本的な考え方を解説したいと思います。
1.社会保険料が発生するタイミング
社会保険料は法人と従業員が50%ずつ負担し、従業員負担分については毎月の給与から天引きすることになります。社会保険料は月末に従業員が法人へ属していることで発生し、当該保険料を翌月末までに納付することとされています。一方、毎月の給与の締日や支給日、社会保険料の天引き方法は法人が目的や状況に応じてルールを定めています。このため、前者はどの法人でも同じであるのに対して、後者は法人ごとに異なります。しかし、社会保険料の発生のタイミングと給与の締日や支給日、天引きのタイミングを混同し、誤った会計処理をしているケースが散見されます。法人の給与計算に関わらず、社会保険料の発生するタイミングは一定であり、会計上の費用として計上される金額も一定となります。
2.具体的な会計処理例
社会保険料の会計処理が給与計算期間や社会保険料の天引き方法に影響されず、一定であることについて具体的な例を用いて解説したいと思います。
給与の締日や天引きするタイミングが異なる場合でも9月の法定福利費は同じ50千円となります。
【ポイント】
社会保険料は月末に従業員が法人に属していることで該当月の負担が確定します。このため、例③のように給与計算期間が月の途中から始まるケースでも、給与計算期間に合わせて期間按分するのではなく1ヵ月分を全額計上する必要があります。
【よくある誤り】
給与計算が月の途中から始まるケースでは、開始日~月末までの給与を未払計上することとなりますが、その際に社会保険料の未払計上分も同様に開始日~月末分として計上(例③の場合に25千円を計上)してしまうケースが散見されます。
【その他留意点】
社会保険料の発生のタイミングの問題とは異なりますが、社会保険料を翌月支給分の給与より天引きすることとしているにも関わらず、預り金が翌月に繰越されているケースやその逆のケースも散見されます。社会保険料を翌月支給の給与より天引きする場合、例①、③のように10月25日支給時に天引きされた社会保険料は、10月31日に納付されるため、翌月に繰越されることはありません。一方で当月支給の給与より天引きする場合、例②のように9月25日支給時に天引きされた社会保険料は、9月30日には納付されず、10月31日に納付されます。このため、9月25日に天引きされた社会保険料が翌月まで繰越されることになります。天引きのタイミングにより会計処理が異なりますので留意が必要です。
3.まとめ
社会保険料の会計処理はすべての法人に関係しますが、誤りが散見される会計処理でもあります。上述した例とは異なり、給与や社会保険料を支給(納付)時に費用処理されている法人も多いと思いますが、その場合でも決算時に未払計上することになりますので留意が必要です。今回の内容が会計処理を振り返るきっかけとなりましたら幸いです。