2024年7月号 社会福祉法人の資金使途制限(4)~措置施設
公認会計士 田中 久美子
1993年から大手監査法人で監査業務・M&A支援業務に従事し、中国への海外赴任を経て2017年御堂筋監査法人に入社。医療法人及び社会福祉法人の監査業務に従事。同志社大学大学院で内部統制、内部監査の講義を担当。御堂筋監査法人代表社員。
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として社会福祉法の定めるところにより設立された法人であり、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益事業、収益事業を行うことができます。そのため、一つの社会福祉法人で複数の事業を行っていることが多いですが、事業の性質によって資金使途制限が設けられており、事業間で資金を効率的に融通することに制約があることがあります。これには事業ごとに制限される通知が異なり、混同されている方も多いのではないでしょうか。今回は、措置施設に関する資金使途制限について、「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について」(雇児発第0312001号/社援発第0312001号/老発第0312001号/各都道府県知事・各指定都市市長・各中核都市市長あて厚生労働省雇用均等・児童家庭局長、厚生労働省社会・援護局長、厚生労働省老健局長通知)に基づいて、誤解を恐れずできるだけ簡単にご説明させていただきたいと思います。
1.措置制度と運営費(措置費)
措置制度は、行政が利用者に必要なサービスを判断し、事業者にサービス提供を委託するというもので、利用者に選択の余地はなく、措置決定という行政処分として行われます。つまり、事業者は行政が実施すべき事業を代行するという建付けであり、その事業運営に必要な費用は措置費として行政から支弁されることになります。措置費の財源は税金等の公的資金ですから、その資金使途の制限についてはより厳しい取扱いとなりますし、そもそも事業運営に必要な最低限の日常的な経費を支弁していますので、多額の余剰や赤字が発生することは想定されていません。
しかし、事業を効率的に実施する等によって余剰資金が発生することはありますので、本来は目的以外に使用してはならない資金ですが、適正な法人運営及び施設運営が確保されている場合には例外的に資金使途制限を緩和するということになっています。
この措置制度の対象施設は、「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について」の別表2に記載されています。
2.弾力運用が認められる要件
運営費の弾力運用が認められる要件は下記の4つとなります。
① 適正な法人運営の確保
② 適正な施設運営の確保
③ 社会福祉法人会計基準に準拠した財産目録、貸借対照表及び収支計算書の公開
④ 利用者本位サービスの提供(毎年度利用者の保護もしくはサービスの質の向上に努める)
④の利用者本位サービスの提供については、具体的には以下のような対応が求められています。
利用者の保護:
「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について」により
✓ 入所者等に対して苦情解決の仕組みを周知
✓ 第三者委員を設置して適切な対応を実施
✓ 苦情内容及び解決結果の定期的な公表 等
サービスの質の向上:
「「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」の全部改正について」に基づき
✓ 第三者評価を受審
✓ その結果の公表
3.弾力運用の内容
上記4つの要件全てが充足された場合には、以下のような弾力運用が認められます。
① 当該施設内の区分を超えた充当
人件費、管理費、事業費については、各区分に関わらず、当該施設における人件費、管理費、事業費に充当することができます。
② 将来発生見込の経費への充当
使用計画を作成し、以下の積立金に積み立てることで、次年度以降の経費に充当することができます。
・人件費積立金
・施設整備等積立金
ただし、法人の経営上止むを得ないものとして理事会で承認された場合は、上記積立金を目的以外に使用することができます。
なお、上記④の要件(利用者本位サービスの提供)のみを満たさない場合は、下記積立金を積み立てて次年度以降の当該施設の経費に充当することができますが、目的外に使用する場合は所轄庁と協議し、審査することが求められます。
・人件費積立金
・修繕積立金
・備品等購入積立金
③ 借入金の償還金及び利息への充当
民間施設給与等改善費として加算された額に相当する額を限度として、同一法人が運営する特定の社会福祉施設等の整備等に係る経費として借入れた独立行政福祉医療機構等からの借入金の償還金及びその利息に充当することができます。この特定の社会福祉施設等は、「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について」の別表3に記載されていますので、実際に適用される際には原文をご確認ください。
なお、上記④の要件(利用者本位サービスの提供)のみを満たさない場合は、民間施設給与等改善費として加算された額に相当する額を限度として、各サービス区分(サービス区分を設けない場合は各拠点区分)において発生した施設の整備等に係る経費に繰入れることができます。
④ 預貯金の利息等の収入(運用収入)の充当
サービス区分(サービス区分を設けない場合は拠点区分)で発生した運用収入は、以下の経費に充当することができます。
・借入金の償還金及び利息
・法人本部の運営経費
・同一法人が行う社会福祉事業の運営経費
・同一法人が行う公益事業の運営経費
なお、上記④の要件(利用者本位サービスの提供)のみを満たさない場合は、以下の経費に充当することができます。
・当該施設の整備等に係る経費
・法人本部の運営経費
⑤ 前期末支払資金残高
前期末支払資金残高については、理事会の事前承認のもと、以下の経費に充当することができます。
・当該施設の通常経費の不足分の補填
・法人本部の運営経費
・同一法人が行う社会福祉事業の運営経費
・同一法人が行う公益事業の運営経費
この前期末支払資金残高ですが、そもそも余剰資金が発生しないことを想定した措置制度ですので、過大な保有を防止する観点から、当該年度の運営費収入の30%以下の保有とすることが求められています。
なお、上記④の要件(利用者本位サービスの提供)のみを満たさない場合は、所轄庁と協議し、審査を経て以下の経費に充当することができます。
・当該施設の通常経費の不足分の補填
・当該施設の建物の修繕
・当該施設の業務省力化機器の設備の整備
ただし、自然災害その他やむを得ない事由で取崩しが必要な場合や取り崩す額の合計額が当該年度のサービス区分収入予算額の3%以下の場合は、所轄庁との協議を省略することができます。
4.運営費の管理・運用
運営費の管理・運用については、銀行、郵便局等への預貯金等安全確実でかつ換金性の高い方法によることが求められています。また、同一法人内における各サービス区分、各拠点区分及び各事業区分への資金の貸借については、当該法人の経営上止むを得ない場合に、当該年度内に限っては認められています。つまり、介護保険事業や障害者(児)支援事業での資金の繰入れのように次年度への繰り越しは認められず、年度内で資金を補充して貸借をなくすことが必要となります。
5.まとめ
このように、措置施設に対する資金使途制限は、他の社会福祉法人の事業種類に比較して最も厳しいものとなっています。
これまで4回に分けて、社会福祉法人の資金使途制限についてできるだけ分かりやすく解説してきましたが、適用される通知等が多岐に分かれており、非常に分かりにくいと思います。ぜひ実務で適用される際には原文にあたっていただきたいと思いますが、概略を理解したいという方はぜひ下記も併せてご覧ください。
社会福祉法人の資金使途制限
(1)介護保険事業 ⇒御堂筋監査法人ニュースレター2022年12月
(2)障害者(児)支援事業 ⇒御堂筋監査法人ニュースレター2023年 7月
(3)保育施設 ⇒御堂筋監査法人ニュースレター2023年12月
(4)措置施設 ⇒御堂筋監査法人ニュースレター2024年 7月(本稿)