2024年3月号 医療機器の購入とリースの比較
公認会計士 迫口 博之
大手・中堅監査法人を経て2016年に御堂筋監査法人の設立に参画。以来、主に医療法人の内部統制指導、監査業務に従事。御堂筋監査法人 代表社員。保有資格:公認会計士/システム監査技術者/診療情報管理士。
医療機器は高額であるため、設備資金として借入れを行って購入するか、リースにより調達するかを悩まれるケースが多いかと思います。一概にどちらの方法がよいとは言えず、どちらもメリット・デメリットがあるため、それらを理解して法人の経営状況に合う適切な方法を選択する必要があります。
そこで今月号では医療機器導入の際の判断の一助となるよう、購入とリースのメリット・デメリットについて財務面、会計・税務面、運用面の3つの観点から解説します。
1.財務面について
①キャッシュ・フロー
購入の場合、一時に多額の資金流出が発生しますが、リースは契約期間に亘って分割払いとなりますので、余剰資金を投資あるいは運転資金として有効活用することができます。
②支払総額
リース料にはリース会社の利益や諸経費が含まれているため、金融機関からの借入れの約定金利と比較して割高となり、購入よりも支払総額は大きくなります。一方、購入の場合には自己資金で一括購入する場合はもちろん、金融機関から借入れをして購入したとしてもリースより金利が低いため、リースに比べ支払総額を抑えることができます。
③借入枠
設備投資資金は金融機関から無制限に借りられるわけではなく、担保等によって借入枠が決まっています。金融機関から借入れをして購入する場合、この借入枠を使ってしまうことになりますが、リースを利用すれば,借入枠は温存されることになり、資金調達力に余力を残すことができます。
④担保
金融機関から借入をして購入する場合、物的担保の提供を求められるケースが多くありますが、リースは原則として物的担保の提供は求められません。
⑤金利変動リスク
金融機関から変動金利による借入れをして購入する場合、その後の金利変動リスクの影響を受けますが、リースについては契約期間中のリース料が固定されているため、金利変動リスクを回避することができます。
⑥固定資産税・損害保険料
購入の場合、医療機器は自己の所有物となるため、固定資産税、損害保険料を購入者が納付する必要がありますが、リースの場合、リース会社が納付します。但し、リース料に固定資産税、損害保険料が含まれているため、実質的には賃借人が固定資産税、損害保険料を負担することになります。
⑦契約終了後の取扱い
リースの場合、リース期間満了時にリース物件を返還するか、再リース料を支払わなければ使用し続けることができませんが、金融機関から借入れをして購入する場合、借入期間満了後も購入者の所有物であるため当然使用し続けることができます。
2.会計・税務面について
①オフバランス効果
金融機関から借入れをして購入する場合、貸借対照表に固定資産と借入金が計上されます。一方、一部のリース取引についてはオフバランス処理(貸借対照表に資産、負債として計上する必要がない)することが可能であり、資産、負債をオフバランスすることで資産効率が向上し、対外的な評価を高めることにつながります。どのようなリース取引がオフバランス処理できるか等、リース取引の具体的な処理については弊法人の2022年1月号のニュースレター「リース取引の会計処理について」で解説していますので、そちらをご参照下さい。
②費用の平準化
購入の場合、償却方法に定率法を選択した場合には購入当初の費用計上額が多くなります。一方、リースの場合には毎年一定額の支払となるため、費用の平準化を図ることができます。
③税務上の特典
リースでは特別償却や税額控除の税務上の特典を受けることができませんが、一定条件を満たす医療機器を購入した場合、これらの税務上の特典を受けることができます。
3.運用面について
医療機器を購入した場合、減価償却費の計算、固定資産税の申告・納付、損害保険料の付保・管理、物件の廃棄処分等の煩雑な事務負担が発生します。リースを利用した場合には、これらの事務はリース会社によって行われるため、管理部門の合理化が図れます。
4.判断部門について
以上の購入とリースのメリット・デメリットをまとめると下表のようになります。いずれの方法を選択するかによって特に財務面や会計・税務面に与える影響が大きく異なってきますので、医療機器導入時には現場の部門だけではなく経理部・財務部が積極的に関与することが求められます。そして、経理部・財務部ではこれらのメリット・デメリットを総合的に判断し、法人の経営状況に合った適切な方法を選択することが期待されます。