2024年9月号 社会医療法人移行時の会計上の留意点
公認会計士 森 康友
平成25年に税理士法人日本経営に入社し、医療・介護分野における会計・税務業務に従事。現在、御堂筋監査法人において、主に医療法人の監査業務を担当。保有資格:公認会計士/医療経営士
平成19年4月1日以降、持分あり医療法人(経過措置型の医療法人)の持分なし医療法人への移行を厚生労働省が推奨している点や税制上の大きな優遇を受けることが出来る点から社会医療法人への移行を検討されている医療法人も多いのではないでしょうか。社会医療法人への移行は親族要件等の認定要件を充足することも大切ですが、会計上も留意すべき点がいくつかあります。そこで、今回は社会医療法人移行時の会計上の留意点について解説をしたいと思います。
1.医療法人会計基準の適用
医療法第51条第2項により一定規模以上の医療法人は、医療法人会計基準に基づいて貸借対照表及び損益計算書を作成することが義務付けられています。一定規模以上の医療法人とは下記の通りです。
①負債50億円又は事業収益70億円の医療法人
②負債20億円又は事業収益10億円の社会医療法人
③社会医療法人債発行医療法人
通常の医療法人よりも社会医療法人の方が判断基準となる負債総額や事業収益の金額が低く、医療法人会計基準の適用範囲が広いため、社会医療法人へ移行した結果、医療法人会計基準の適用が必要となる可能性があります。医療法人会計基準を適用する際の一般的な留意点は下記の通りです。
社会医療法人へ移行した場合、医療法人会計基準の適用が必要となるのか、また必要となる場合は適用した際の影響はどの程度か、事前に把握し準備をすることが重要です。
2.法人税法上の課税事業と非課税事業
社会医療法人は医療保健業に係る法人税が非課税とされています。よって、社会医療法人が行う事業を非課税事業と課税事業に区分する必要があるのですが、この法人税法上の非課税事業・課税事業の区分が医療法上の本来業務・附帯業務・収益業務の区分と必ずしも一致しないため、留意が必要となります。具体的には下記の通りです。
上記の通り、本来業務に含まれる附随業務の一部は課税事業となります。会計上は施設別に区分し、会計処理をしており、医療法上の業務区分に基づいて集計することは可能なものの法人税法上の事業区分に基づいて集計することが出来ないケースが多く見られます。このため、法人税の申告の際に集計した本来業務から当該附随業務に係る収益及び費用を抽出する必要があります。法人税の申告のために必要となる具体的な手続きは下記の通りとなります。
各ステップを進めるためには法人内外の様々な人との協力が必要となります。このため、経理課等の会計処理を行う部署のみで行うことは困難であり、また決算処理の時期だけで行うことは現実的ではありません。社会医療法人への移行が決まった段階から準備を進めることが大切です。
3.収益業務の区分
医療法第42の2により、社会医療法人は本来業務に支障のない限り、定款(寄附行為)の定めるところにより、その収益を本来業務の経営に充てることを目的として収益業務を行うことができます。このため、病院の駐車場の一部をMS法人などの外部へ賃貸するなど、不動産賃貸業を行っている法人も多く見受けられます。このようなケースでは不動産賃貸業の規模が小さいことも多く、本来業務と収益業務を会計上区分せず会計処理を行っている法人が散見されます。
しかし、医療法第42の2第3項において「収益業務に係る会計は、本来業務及び附帯業務に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない」とされています。また医療法人会計基準において「収益業務から一般会計(本来業務・附帯業務)への繰入金の状況並びに資産及び負債のうち収益業務に係るものの注記が必要」とされています。よって、規模の大小に関わらず、本来業務・附帯業務と収益業務は明確に区分することが求められます。会計データ上に新たな施設区分を設ける、収益業務に係る収益・費用を把握するなど、区分経理ができる体制を構築する必要があり、当該作業には時間が掛かります。収益業務を実施することが決まった段階から準備を進めることが重要となります。なお、収益業務に係る注記については「日本公認会計士協会 非営利法人委員会研究資料第7号 医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」を参照ください。
4.まとめ
今回は社会医療法人へ移行した際の留意点について解説しましたが、各留意点について決算処理の時期にまとめて行う法人も散見されます。業務の効率性や正確性の観点から事前にどのような対応が必要なのか把握し、準備することが大切です。