2025年10月号 助成金と消費税の返還について
公認会計士 森 康友
平成25年に税理士法人日本経営に入社し、医療・介護分野における会計・税務業務に従事。現在、御堂筋監査法人において、主に医療法人の監査業務を担当。保有資格:公認会計士/医療経営士
医療法人では、高額な医療機器などを購入する際、その全部又は一部を助成金等で賄うケースがありますが、例外を除いて、後日消費税の一部を返還する必要があります。これは国の税金の仕組みと助成金のルールを調整するための手続きなのですが、なぜ返還が必要なのか分からない方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は助成金と消費税の返還について解説したいと思います。
1.消費税の基本的な考え方
法人が国に納める消費税の基本的な計算は以下のようになっています。
【国に納める消費税額】= ①お客様から預かった消費税 - ②仕入れ等で支払った消費税
例えば、ある法人が11,000円(うち消費税1,000円)の商品を売ったとします。この商品を作るために、材料を5,500円(うち消費税500円)で仕入れていました。
この場合、法人が国に納める消費税は、
①預かった消費税1,000円 - ②支払った消費税500円 = 500円 となります。
このように、事業で使った経費(仕入れなど)で支払った消費税分は、商品を売った際に預かった消費税分から差し引くことができます。この仕組みを「仕入税額控除」と言います。この「支払った消費税は差し引ける」という点が、最大のポイントとなります。
2.助成金で資産を購入した場合
助成金を使って1,100万円(本体価格1,000万円、消費税100万円)の機械を購入したケースで購入費のうち、660万円が助成金で賄われたとします。
A法人は、まず販売業者に1,100万円を支払います。この時、100万円の消費税を支払っています。
そして、法人の決算時期に消費税の確定申告をする際、先ほどの「仕入税額控除」のルールにより、「機械を買うために支払った消費税は、預かった消費税分から差し引ける」ため、A法人が国に納める消費税額は100万円少なくなります。
状況を整理すると下記の通りとなります。
① A法人は、機械代金の一部(660万円)を助成金(国のお金)で支払う。
② A法人は、支払った消費税100万円を全額仕入税額控除する。(納税額が減少する。)
結果、法人で負担していない助成金の部分に対応する消費税額まで、税金の控除を受けていることになります。これは助成金と税金の控除という二つの制度を通じて“二重の利益”を得ていることを意味します。
この不公平な状態をなくすため、「あなたが支払った消費税のうち、助成金で賄われた部分に相当する金額分だけ、仕入税額控除で得をしたはずなので、その分は助成金の交付元に返してくださいね」というルールが設けられています。
3.返還額の計算
返還額は「支払った消費税のうち、購入代金(税込)に占める助成金の割合」により計算することができます。
・購入代金1,100万円(税込)
・支払った消費税100万円
・交付された助成金660万円
助成金が購入代金に占める割合は、660万円 ÷ 1,100万円 = 60%です。したがって、返還する額は100万円(支払った消費税) × 60% = 60万円となります。
A法人は消費税の申告が終わった後、助成金の交付元に「仕入税額控除できた金額のうち、助成金に対応する分は60万円でした」と報告し、この60万円を返還します。
4.まとめ
助成金における消費税の返還は、ペナルティではなく、あくまでも制度間の調整であり、事業者が不当な利益を得ないようにするための合理的なルールです。なお、助成金の交付元への返還額の報告は交付要綱や手引きにより義務付けられている(助成金の受給要件となっている)ため、報告漏れがないようご留意ください。
これまでの説明については、「大まかなイメージ」を持っていただくための内容となっていますので、実際の計算と完全に一致する訳ではありません。今回の解説については「助成金と消費税の返還の関係」を理解するための第一歩としてご活用いただければ幸いです。