2020年7月号 開示書類から考える借入金管理のポイント
公認会計士協会準会員 岡林 誠
上場企業の会計監査や上場準備支援業務を経験後、御堂筋監査法人に入社。現在、医療法人及び社会福祉法人を中心として監査業務に従事している。
借入金がある医療法人では資金繰り管理のために、借入金の台帳等を作成し、返済予定や利息の支払いを管理されています。しかし、その管理については必ずしも十分でないケースも見受けられます。借入金に関する情報は決算の開示書類で記載が求められていますが、決算書の利用者にとって重要な項目であるとともに、経営者や管理者にとっても大切な情報でもあります。そこで今回は、借入金の管理に開示書類の視点を向けることによって、借入に関する必要な情報を適切に管理するためのポイントを解説します。
1.借入金の返済スケジュールの管理
貸借対照表上、長期借入金のうち貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に返済期限が到来するものは流動負債に計上し、1年超のものは固定負債に計上しなければなりません。また、附属明細表の借入金等明細表に、5年以内における一年ごとの返済予定額の総額を注記する必要があります。これらの情報は資金繰り管理においても非常に重要となりますので、返済スケジュールを作成し、各年度の返済予定額を適切に管理する必要があります。
2.発生主義による支払利息
借入金の支払利息は当期に対応する費用を計上する必要があることから、発生主義により処理する必要があります。支払利息を発生主義で処理するには、支払利息がどの期間に対応する費用なのかを把握することが必要です。支払いが発生していても対応期間が翌期であれば前払利息として認識しますし、逆に支払いが発生していなくても対応期間が過ぎていえれば未払利息として認識する必要があります。支払利息の支払い方法は借入金の発生時に台帳に記載して管理しておくとよいでしょう。
また、借入金等明細表には期末の借入金残高に対する期末の利率を開示する必要がありますが、法人の借入利率を把握し、金利負担が法人にとってどれだけの影響があるかなど経営判断に資する情報として利用できるようにされてはいかがでしょうか。
3.担保に供された資産の開示
貸借対照表の注記事項として担保に供している資産の科目と金額、担保に係る債務の科目と金額を注記する必要があります。しかし、担保に供している資産が借入に紐づいて適切に管理されていない場合が見受けられます。担保提供資産を担保に係る債務と紐づけて管理することは、担保余力や担保登記の抹消漏れの確認にもなりますので、定期的に登記簿謄本を入手して確認するとよいでしょう。
4.関係事業者との取引
法人及び個人の関係事業者が関わる借入金には注意が必要です。法人及び個人の関係事業者からの借入金については、金額の重要性に応じて別掲表示または注記する必要があります。また、借入金に法人及び個人の関係事業者により保証が付されている場合や、法人及び個人の関係事業者の保有する資産が借入の担保に供されている場合には金額の重要性に応じて取引内容の開示が必要となります。しかし、関係事業者との取引に関する項目は記載漏れが生じたり、一般の取引条件から乖離しやすいため、管理部署が取引をタイムリーかつ網羅的に把握する必要があります。
5.経営に資する情報
上記で述べたポイントに沿って、借入金管理表等が作成されることで、資金繰りや担保資産の管理に資する情報が集約されます。それらは、医療法人経営上の判断を行うにあたって非常に重要な情報となりますので、金銭消費貸借契約書、銀行発行の返済予定表、不動産登記簿謄本等とともに適切に保存・管理することが重要です。これによって、会計監査や都道府県等に届出る情報を正確かつ適時に把握することが出来るようにもなるでしょう。