2020年4月号 医療法人の窓口現金の管理~実務上の対応
公認会計士協会準会員 森 康友
平成25年に税理士法人日本経営に入社し、医療・介護分野における会計・税務業務に従事、決算業務や申告業務、特定医療法人成りなど医療法人における様々な分野に精通。現在、御堂筋監査法人において、主に医療法人の監査業務を担当。
医療法人では病院窓口で診療代金等を受け取ることから、比較的多額な現金を病院窓口で取り扱う機会が多くなります。このため、盗難や紛失、横領等の事故が比較的発生しやすい傾向にあり、その被害額も多額となるケースが生じています。盗難・紛失等の防止の観点から窓口現金の管理上留意すべきポイントはいくつかありますが、今回はその中から、①職務分掌、②担当者のローテーション、③窓口現金の締め処理、④医事会計データのログ確認、⑤経理部門による確認について解説したいと思います。
統制1.職務分掌
病院窓口での現金回収業務は、「診療代金の算定」と「現金の収納」に区分されます。この2つの業務を同一の担当者が行っている場合、診療代金を算定し、患者より現金を受領後、診療情報の改竄を行うことで受領した現金と改竄後の診療代金との差額を着服することが可能となります。
このような行為を牽制するため、内部管理上、診療代金の算定業務担当者と現金の収納業務担当者を分離する必要があります。
また、複数担当者による確認を行うことで内部牽制を強化すれば、より不正リスクの軽減を図ることが可能です。
統制2.担当者のローテーション
不正事例の多くは、同じ職員が長期間同じ業務を担当し、他の職員がその職務に関知していなかったという職場環境から生じます。
ある病院では、病院の窓口業務を20年間担当していた職員が診療代金の一部を横領していましたが、他の職員は窓口業務について関知せず、発見することが出来ませんでした。1つ1つの横領額は少額であったものの、長期間に渡り横領を続けていたため被害総額は1億円を超えるものとなりました。
このため、人事異動により定期的に担当者のローテーションを行うことで、不正をしてもいずれ発覚するという認識を担当者に持たせ、不正はできないという雰囲気を醸成することが重要であり、最も効果的な統制行為といえます。
また、定期的なローテーションは、職員のスキルアップ、さらにはお互いの仕事をカバーできる体制や組織風土を醸成することが可能になるなど、人材育成や業務効率化にも繋がります。
統制3.窓口現金の締め処理
日々の窓口現金の締め処理において、現金、領収書の控、レジシートの3点のみを照合している場合があります。POSレジと医事会計システムが連動していない場合、現金の収納業務担当者が患者から受領した現金をレジに通すことなく着服し、領収書の控を破棄することにより現金、領収書控、レジシートの金額を一致させることが可能となり、収納業務担当者による着服を発見できない可能性があります。
このような行為を牽制するためには、医事会計システム上の情報と上記3点の資料を照合し、提供したサービスに対応する入金金額及び未収金の有無をタイムリーに把握することが重要です。
統制4.医事会計データのログ確認
POSレジと医事会計システムが連動している場合においても、担当者が医事会計システムの入金データを取消処理することにより、現金を横領するケースが想定されます。
通常、医事会計システムに入金データの取消ログが保存されていますので、上記のような不正行為を発見し、牽制効果を働かせるために、定期的に入金データの取消ログを確認し、取消処理が適切な内容であるかを確認する方法も統制行為として挙げられます。
統制5.経理部門による確認
経理部門が医事課から現金を回収する際、経理部門においても現金と関連資料(領収書の控等)を照合することにより、横領の早期発見や部門間の牽制効果が期待できます。