2022年1月号 リース取引の会計処理について
公認会計士 森 康友
平成25年に税理士法人日本経営に入社し、医療・介護分野における会計・税務業務に従事。現在、御堂筋監査法人において、主に医療法人の監査業務を担当。保有資格:公認会計士/医療経営士
医療法人では患者さんへ適切な医療を提供するため、MRIやCTをはじめとした高額な医療器機を使用し様々な診療行為を行っています。高額な医療器機を取得するためには、多額の資金が必要となるためリース契約を締結し、毎月リース料を支払うことにより各医療器機を使用している医療法人も多く見受けられます。リース取引は、医療法人にとって身近な取引である一方でその取引に係る会計処理については正しく認識されていないケースも見受けられます。そこで今回はリース取引について解説したいと思います。
1.リース取引とは
リース取引とは、特定の物件の所有者たる貸手が当該物件の借手に対し「合意された期間」にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は「合意された使用料」を貸手へ支払う取引をいいます。リース取引の定義を満たすものについては、レンタル契約、賃貸契約などの名称にかかわらずリース取引として取り扱うこととなるため留意が必要です。
リース取引は、「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース」に分類されます。ファイナンス・リース取引とは、リース契約を中途解約できない取引又はこれに準ずる取引で、借手が使用する物件からもたらされる経済的便益を実質的に享受でき、かつ使用に伴うコストを実質的に負担するリース取引をいいます。また、ファイナンス・リース取引は、リース物件の所有権が最終的に借手へ移転すると認められる「所有権移転ファイナンス・リース取引」とそれ以外の「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分類されます。オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいいます。
2.リース取引の会計処理
ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引は会計処理が異なるため留意が必要です。
(1)ファイナンス・リース取引
ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行います。
①契約締結時
リース物件とこれに係るリース債務を、リース資産およびリース負債として計上します。その計上額は、貸手の購入価額が明らかな場合は当該価額。明らかでない場合は「リース総額の現在価値」又は「見積現金購入価額」のいずれか低い額となります。なお、所有権移転外ファイナンス・リース取引と判定され、かつリース資産総額の重要性が乏しい場合には、リース契約総額で計上することができます。
(借)リース資産 ××× (貸)リース債務 ×××
②毎月のリース料の支払い時
毎月のリース料を元本返済分と支払利息に分けて処理することとなります。
(借)リース債務 ××× (貸)普通預金 ×××
支払利息 ×××
なお、リース資産及びリース負債をリース契約総額で計上した場合は、毎月のリース料をリース債務の返済分として処理することとなります。
③リース資産の減価償却の計上時
リース資産の減価償却は、所有権移転ファイナンス・リース取引では、自己所有の固定資産と同様の方法により処理することとなり、所有権移転外ファイナンス・リース取引では「リース期間=耐用年数」「残存価額=ゼロ」として定額法等の中から法人の実態に応じた方法を選択適用して処理することとなります。
④医療法人会計基準特有の処理
ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて処理することとなりますが、所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当し、かつ下記の要件のいずれかに該当する場合、賃貸借処理によることができます。
ⅰ)リース取引開始日が、医療法人会計基準の適用前の会計年度である
ⅱ)リース取引開始日が、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満である会計年度である
ⅲ)1契約におけるリース料総額が300万円未満である
なお、賃貸借処理をした所有権移転外ファイナンス・リース取引がある場合には、貸借対照表科目に準じた資産の種類ごとのリース料総額および未経過リース料の当期末残高を、会計基準第22条第8号の事項として注記する必要があるため、留意が必要です。
(2)オペレーティング・リース取引
オペレーティング・リース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行います。
(借)支払リース料 ××× (貸)普通預金 ×××
3.実務上間違えやすいポイントとその対応方法
リース取引に係る会計処理を適切に行うためには、リース取引を適切に分類することが必要となりますが、下記のようなケースが見受けられます。
契約内容を理解し、各要件に当てはまっているか否かをしっかりと判断することが必要です。また、分類は適切に行われている場合でも、決算の際には下記のようなケースが見受けられます。
契約一覧表を作成することで、会計上のリース債務残高と一覧表上のリース債務残高を照合し、会計処理が適切に行われているかを検証することができるようになります。また、注記を作成する際には当該一覧表よりリース料総額や未経過リース料を集計することが可能となります。加えて、決算の際にリース会社から情報を収集し、それと照合することも有効な方法となります。
医療機関において、リース取引はとても身近な取引です。その取引に係る会計処理が適切に行われるよう、間違えやすいポイントとその対応方法を理解することが大切になります。