2022年7月号 医療法人の税効果会計(その1)
公認会計士 田中 久美子
1993年から大手監査法人で監査業務・M&A支援業務に従事し、中国への海外赴任を経て2017年御堂筋監査法人に入社。医療法人及び社会福祉法人の監査業務に従事。同志社大学大学院で内部統制、内部監査の講義を担当。御堂筋監査法人代表社員。
一定規模以上の医療法人については「医療法人会計基準」が適用されますが、そこでは企業会計と同様の税効果会計が適用されます。しかし、それまで医療法人では税効果会計が適用されていなかったため、そもそも税効果会計についてご存知でない方も少なくはないのではないでしょうか。今回は、そのような方のご参考になればと、税効果会計の概要を簡単にご説明させていただきます。
1.税効果会計とは
効果会計基準には、「税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続」と記載されています。要は、会計上の利益と税金計算の基になる課税所得が異なる場合があり、課税所得をもとに計算された税金金額と会計上の利益との対応関係を図るために税金を期間で配分するのが税効果会計です。例えば退職給付費用は、会計上は職員がその期間に働いた対価としてその期に発生した分の費用計上が必要となりますが、税務上は実際に支払った時点で損金算入されます。つまり、会計上費用認識されるタイミングと税務上損金算入されるタイミングが異なりますが、退職するまでの期間トータルで見るとどちらも費用(損金)となりますので、このような差異のことを一時差異といいます。一方、交際費等の税務上は将来においても費用とならないものもありますので、そのような差異のことを永久差異といいます。この一時差異の影響で発生する税金を期間配分するのが税効果会計です。文章ではピンとこないかもしれませんので、以下設例で説明します。
損金不算入となる退職給付費用2,000が会計上は費用計上されていますが、税金計算上は損金算入されず、課税所得としては10,500に税率28.0%を乗じた2,940が当期の税金となります。これを会計上も認識しますが、この税金と税引前当期利益の割合を計算すると34.6%となり、当期の税金負担が大きくなります。しかし、これは将来解消される差異ですので、その分を下記の通り将来の税金費用として繰り延べて調整します。
一時差異の2,000に実効税率を乗じた560を法人税等調整額として当期の税金負担から控除すると、当期の税金負担は2,940-560=2,380となり、当期の税金負担割合が会計上の利益に対応するものとなります。この調整には、下記の仕訳が必要となります。
繰延税金資産 560/ 法人税等調整額 560
2.繰延税金資産の回収可能性
上記の設例では、退職給付費用が将来減算(損金算入)されるので、税金の期間配分のために資産計上して繰り延べていますが、これは将来減算されることでその時の税金負担が軽くなることが前提となっています。つまり、支払時(税務上損金算入時)にその期の税金負担が軽くなり、会計上の利益に対応しなくなるので、その分を調整することになります。支払時の税金の調整については、下記をご参照ください。理解のために当期発生の退職給付費用はなしという前提で、当期支払ったため税務上減算されたという設定です。 一時差異の2,000に実効税率を乗じた560を法人税等調整額として当期の税金負担に加算すると、当期の税金負担は5,180+560=5,740となり、当期の税金負担割合が会計上の利益に対応するものとなります。この調整には、下記の仕訳が必要となります。
法人税等調整額 560/ 繰延税金資産 560
つまり、将来減算一時差異として繰延税金資産に計上するためには、将来減算できる課税所得の発生が必要となります。したがって、将来課税所得が発生する見込みがなければ繰延税金資産の価値がなく、評価減が必要となります。どの程度の資産が計上できるのかについては、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に従って判断することになります。具体的な回収可能性の判断の方法については別途ニュースレターで詳細に解説させていただきますが、適用指針が提示する要件に従って法人を分類し、その分類に従って将来減算一時差異の全部、もしくは一部の評価減を行うことになります。