2023年7月号 社会福祉法人の資金使途制限(2)~障害者(児)支援事業
公認会計士 田中 久美子
1993年から大手監査法人で監査業務・M&A支援業務に従事し、中国への海外赴任を経て2017年御堂筋監査法人に入社。医療法人及び社会福祉法人の監査業務に従事。同志社大学大学院で内部統制、内部監査の講義を担当。御堂筋監査法人代表社員。
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として社会福祉法の定めるところにより設立された法人であり、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益事業、収益事業を行うことができます。そのため、一つの社会福祉法人で複数の事業を行っていることが多いですが、事業の性質によって資金使途制限が設けられており、事業間で資金を効率的に融通することに制約があることがあります。これは事業ごとに制限される通知が異なり、混同されている方も多いのではないでしょうか。今回は、その中でも障害者(児)支援事業に関する資金使途制限について、「障害者自立支援法の施行に伴う移行時特別積立金等の取扱いについて」及び「指定障害児入所施設等における障害児入所給付費等の取扱いについて」に基づいて、誤解を恐れずできるだけ簡単にご説明させていただきたいと思います。
1.障害者(児)福祉の変遷
障害者福祉は、「社会福祉増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律」により、平成15年度から、それまでの国や地方公共団体が提供するサービスを判断する仕組み(措置制度)から、利用者と事業者との直接的な契約となり、利用者が選択したサービスの利用料金を行政が支援する「支援費制度」となりました。しかし、この支援費制度には、支援対象の範囲や財源の問題、地域格差等の課題があり、平成18年10月の「障害者自立支援法」の施行により、障害程度区分を導入した「自立支援給付費制度」へと移行しました。さらに、平成22年には障害程度区分の導入による弊害等から「障害者自立支援法」が廃止となり、平成25年に「障害者総合支援法」が制定されることとなりました。これらの制度改定により、措置から利用者との直接契約となり、障害者支援施設の資金使途制限が緩和されることになりました。
障害児事業については、平成18年10月の障害者自立支援法の実施に伴う児童福祉法の改正により、措置制度と契約制度が併存することとなりました。また、平成24年の児童福祉法の一部改正により、それまで障害の種別で分かれていた給付を、通所・入所で区分する方法に一元化されました。これらの制度改正により、指定障害児入所施設等の運営については措置制度に係る通知が適用されなくなり、障害児入所施設等給付費の資金使途制限が緩和されることになりました。しかし、措置制度に基づく障害児入所施設等に対する障害児入所措置費については、従来通りの資金使途制限が適用されています。
2.障害者(児)支援事業における弾力的な資金運用
障害者総合支援法に基づく指定障害者支援施設等に対して支給される自立支援給付費を主たる財源とする施設等について、その運営に必要な資金の使途については原則として制限はありません。同様に、児童福祉法に基づく指定障害児入所施設等に支給される障害児入所給付費等を主たる財源とする施設等について、その運営に必要な資金の使途については原則として制限はありません。
一方で、以下の経費には充当することができないとされています
① 障害者事業:収益事業に要する経費
障害児事業:公益事業及び収益事業に要する経費
② 社会福祉法人外への資金の流出(貸付を含む)に属する経費
③ 高額な役員報酬など実質的な剰余金の配当と認められる経費
(障害者自立支援法の施行に伴う移行時特別積立金等の取扱いについて 第2 2)
(指定障害児入所施設等における障害児入所給付費等の取扱いについて 2)
3.資金の繰入れ
資金の繰入れとは、ある事業において余裕資金があり、他の事業において資金不足の場合、前者から後者に資金を渡すことを言います。健全な運営を確保する観点から、他の社会福祉事業等又は公益事業へ資金を繰入れる場合は以下の要件をいずれも満たす必要があります。要は余裕資金が定義され、その範囲内なら可能ということになります。なお、収益事業への繰入れはできませんし、障害児支援事業の資金については公益事業への繰入れもできません。
(1) 事業活動資金収支差額に資金残高が発生
(2) 当期資金収支差額合計に資金不足が生じない範囲内
介護保険事業の資金使途制限と同様、障害者支援事業でも障害児支援事業でも制限範囲内での繰入れとなる要件はありますが、繰入れた資金を年度内に精算する必要はありません。
(障害者自立支援法の施行に伴う移行時特別積立金等の取扱いについて 第2 3 (1))
(指定障害児入所施設等における障害児入所給付費等の取扱いについて 3 (1))
4.資金の繰替使用
資金の繰替使用とは、同一法人内の事業区分間、拠点区分間、サービス区分間での資金の一時的な貸借のことを言います。介護保険事業の資金と同様、障害者事業の資金も、他の社会福祉事業等、公益事業、収益事業との間で一時的に貸し借りをすることが認められています。資金の繰替使用は、収益事業に対してもできる点が資金の繰入れとは異なります。
一方で、一時的な資金の貸借なので、年度内に補充することが求められています。
(障害者自立支援法の施行に伴う移行時特別積立金等の取扱いについて 第2 3 (2))
(指定障害児入所施設等における障害児入所給付費等の取扱いについて 3 (2))
5.まとめ
障害者(児)支援事業の資金の繰入れと繰替使用との差異をまとめると以下の通りとなります。
※1 当期末支払資金残高に資金不足が生じない範囲内で実施可能
※2 事業活動資金収支差額に資金残高があること、かつ、当期資金収支差額合計に資金不足が
生じない範囲内で実施可能
※3 障害者支援事業は事業活動資金収支差額に資金残高があること、かつ、当期資金収支差額
合計に資金不足が生じない範囲内で実施可能
障害児支援事業は公益事業への繰入れは不可
※4 年度内に補填必要
社会福祉法人における障害者(児)支援事業の資金使途制限について、よく誤解されている点にのみ焦点を当てて、簡単に説明させていただきました。皆様の理解の整理にお役立ていただけましたら幸いです。