2021年1月号 医療法⼈における会計監査導入効果の検証
公認会計士 三木 伸介
大手監査法人を経て平成 25 年に株式会社日本経営に入社し、医療・介護分野におけるコンサルティング業務に従事。その後、税理士法人日本経営に転籍し、医療法人等の税務業務に従事。平成 29 年に御堂筋監査法人に入所し、主に医療法人の監査業務を担当。
第 7 次医療法改正により 2019 年 3 月期から公認会計士または監査法人による医療法人の会計監査が導入され、今年で 3 年目に突入しました。今回は会計監査における導入効果について、管理体制向上により、特に被監査法人に喜ばれた事例や会計監査導入効果を実感した事由をご紹介致します。
1.形骸化した理事会の活性化
従来、理事会が形式的に開催されており、実質的な議論が行われることなく、議案が承認可決されて、形式的に議事録が作成されるという状況の医療法人がありました。そのような状況では、業務多忙を理由に理事会には出席せず、議決権行使を委任することが常態化していました。それが、会計監査が導入され、会計監査人が議事録をレビューし、議論された内容を確認するようになり、形骸化した理事会の状況について文書で改善を促しました。その結果、理事の意識が少しずつ変化し、理事会で活発な議論がなされ、理事の出席率も向上することになりました。内部の管理部門が同じことを伝達しても聞いてもらえなかったとお悩みだった医療法人も多いようです。会計監査によって医療法人のガバナンスが強化されたという声を医療法人の理事長、管理部門責任者からお伺いすると、会計監査に従事するものとして医療法人の成長発展に寄与していると感じます。
2.収益管理の可視化
収益プロセスの監査を実施した当初は、請求保留や返戻、未収金管理については医事課の各担当者に任せきりの状態が多く見られました。このような場合、各担当者の能力に依存し、ともすれば長期に請求が保留になる状態が続くケースや、長期未収金が毎年多額に発生し、回収遅延や貸倒れが頻繁に発生する可能性が高くなります。収益プロセスの監査を実施し、保留状況の確認や未収管理の進捗状況を確かめたことがきっかけで、収益プロセスの課題が明確化した医療法人も多くありました。監査で発見された事項を踏まえ、医事課に対し管理面での指導を行った結果、担当者レベルだけで問題解決するのではなく、医事課内で開催される毎月の会議の場で管理状況を発表し、状況を課員全員で把握するようになりました。この管理状況の可視化により、各担当者が一人一人で問題を抱え込まなくなると同時に、医事課長も管理状況を随時把握できるようになり、保留率や未収金における延滞発生率が大きく低下しました。監査がきっかけで管理状況が改善した事例と考えられます。
3.正確な財務数値に基づいた経営判断
会計監査導入前の医療法人の会計は、正確な税金計算を行うための役割が中心であったことから、税務基準で財務数値が作られ、経営判断に使用できない状況にあったと思います。今回会計監査が導入され、診療報酬収益の認識を、現金主義から実現主義に変更し、必要経費については発生主義での計上を行うようになったことで、入金や請求ベースではなく、その月の診療行為に対応する経営成績を経理部門から理事長へ報告できるようになりました。この結果、診療単価や稼働率などの非財務情報のみの分析だけではなく、各種費用を含めた事業利益や経常利益に重点をおいた財務分析が行われるようになり、月次での迅速な経営判断に資する情報提供が可能となりました。また、医療法人会計基準に基づいて賞与引当金や退職給付引当金等を計上したことで、実態に合った財政状態を把握できるようになり、自己資本比率や負債比率、総資本回転率など財務安全性や投資効率を考慮して経営判断を行うことができるようになった医療法人もありました。
4.終わりに
会計監査の導入により業務量が増加したことは否めませんが、監査を通じて管理部門と医療現場のコミュニケーションが図られるようになり、以前より法人内での連携が高まった話もよくお聞きします。実際に、業績のよい医療法人は法人内の連携や管理能力が高いと感じます。我々は、会計監査を有効に活用していただき、より一層管理力向上も含めた医療法人の経営発展に寄与していきたいと考えております。